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| イノベーションを創出する IDEOマジック |
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インタビュー:トム・ケリー Tom Kelley
IDEOのジェネラル・マネジャー。カリフォルニア大学バークレー校でMBAを取得した後、マネジメント・コンサルタントとして活躍。1987年にIDEOに入社。創設者で現チェアマンの兄、デイヴィッド・ケリーの片腕として、従業員400人を抱えるまでに成長したIDEOの経営を担う。ビジネス・デベロップメント、マーケティング、HR、オペレーションを担当。
1991年の創設以来、デザインの世界で数々のヒット作品を生み出してきたIDEO。 その創造力を生み出す源泉はどこにあるのか、 そしてあふれる創造力をイノベーションにどう結びつけているのか。
デザイン業界のみならず、ビジネス界全体が興味を持つところだ。その秘密を惜しげもなく 披露したのが、2001年2月に刊行された"The Art of
Innovation"。著者である IDEOのジェネラル・マネジャー、トム・ケリーが、IDEOマジックを語ってくれた。

IDEOは理想的な職場
その魔法について書きたかったんだ
ECIFFO(以下E) この本は、デザイン業界のみならず、ビジネス界全体から、理想のモデルとして興味を持たれているようですね。
Tom Kelley(以下T) 私は、この本をデザイナーのために書いたわけではない。デザイナーのためには別の本、"Masters of Innovation"がすでに出ているからね。私のバックグラウンドはビジネスだ。だから、想定した読者は、一定規模のグループを管理するビジネスマンで、グループ内にもう少し活気や面白みを持ち込みたいと考えている人だ。どんな業界とかは関係がない。
E この本を書いたいきさつは?
T 以前から本は書きたいと思っていた。1999年1月、私の兄でCEOのデイヴィッドに「月・水・金は通常どおり働き、火・木・土で本を書いてもいいか」と尋ねたんだ。「1年以内に書き上げられるから」とね。でも、業務に差し障りがあるからだめだと言われた。だから、いったん棚上げになってしまったんだ。そこへ、テレビ番組のNightlineで放送したいという話が持ち上がった。ショッピングカートを試作するっていう、あれね。その番組は、1999年の2月10日に放映された。
その翌日、ニューヨークのリチャード・アベイトから電話があって、本を書く気はないかと聞くから、気はあるが仕事に追われていて時間がないと言ったんだ。そしたら彼はライターのジョナサン・リットマンを紹介してくれた。通常と違って、ジョナサンがあらゆることをやってくれたので、私はとても楽だったが、それでもなお、これは私が過去にやったどの仕事よりも大変だった。特に最初の草稿がね。通常業務にはまったく支障をきたすことなく18カ月間くらい夜と週末を使ってやった。毎週土曜日は8〜10時間、リライト期間中の2000年5月から11月までは日曜日も働いた。われわれアメリカ人が言うところの「犬のように働いた」よ。だから書き上げた時はすばらしい気分だった。あなたは気がついたかどうか知らないが、この本は兄、デイヴィッドに捧げたものなのだ。
いろいろな会社で働いてきたが、IDEOは働くには理想的な場所だと思う。だから、私が確信しているIDEOの魔法について書きたかったんだ。本を売りたいというのではなく、この会社の遺産を残したかったんだ。
E 多くのビジネスマンが、この本を手本として、そこから何かを学ぼうと考えているみたいですね。
T 巻末にメールアドレスを載せているんだが、驚くことに、約1,000通ものメールをもらったよ。この本は、先ほども述べたように、特に、一定規模のグループを管理するマネジャーに向けて書いたものだ。たいていのCEOは、イノベーションということに積極的だと思うんだが、マネジャーは自分の責任が増えるので消極的なんだ。例えば「イノベーションは結構だが、毎日の仕事が忙しすぎて」と彼らは言うかもしれない。こうした人々には引き金となるものが必要で、「君ならできる」とか「可能だ」とか「そんなに難しいことでも高くつくことでもない」とか言ってあげる必要があると考えたんだ。
IDEOのユニークさは「観察」の手法にある
E 本の中に出てくるIDEOの方法論について話してください。
T この本に着手するにあたって、ベースを方法論に置こうと考えた。つまり、理解・観察・視覚化・評価と改良・実現という5つのステップで構成することにした。しかし、ここにIDEOのマジックがあるわけではない。5つのステップは、ワークプラクティスと呼ぶことができるかもしれない。ワークプラクティスとは、われわれが何をやるかではなく、いかにやるかなんだ。例えばブレインストーミングは、ワークプラクティスだ。それはプロジェクトの始めだけではなく、いろいろな段階で行われる。一つの調査報告があるのだが、「あなたの会社ではブレインストーミングをしますか」という設問に、調査対象となった企業の84%がイエスと答えている。さらに、「どれくらいの頻度で行うか」という設問には、「四半期に1度」と答えている。四半期に1度のブレインストーミングなんて価値がない。ワークプラクティスとしてのブレインストーミングはステップごとに行うか、あるいはたびたび行うべきものだ。
そして、プロトタイピング。ここで行われているプロトタイピングは視覚化の段階で進められるものだが、それ以外のプロセスでも行われる。ところで、わが社と長いつきあいのあるクライアントは、この手法をつぶさに見てきて、もっと細かいステップに分けた。そうすることによって、自分達もできると考えたからなんだ。これは、誰もが学ぶことができるものだと思えたので、この本の中でそれを紹介しようと思った。
私がIDEOのマジックだと考えるのは、2番目のステップの「観察」だ。なぜなら、たいていの企業がやっていないことだと思うから。そして観察こそがイノベーションのためのインスピレーションを得る拠り所だと思うから。長い間一つの業界にいると、エキスパートとみなされる。エキスパートはアドバイスを求める人に、自分の知っていることを伝えるんだ。
観察のステップは、エキスパートであることをやめることなんだ。初心に戻って、何が起こるか見るんだ。 例えば、オフィス空間をビジネス対象にしているとしよう。そして、オフィスで、何か副次的なことをしたいと考えている顧客を持っているとする。われわれが観察したいと言うと、顧客は「あなたがたは毎日オフィスの中で働いているのだから、観察は必要ないでしょう」と言うかもしれない。でもわれわれは「観察する」と主張するだろう。なぜなら、新鮮な目で見てアプローチすることによって、何かを学ぶことができるからだ。知っていることをすべて消し去ることによって、一から始めることができるんだ。
E IDEOの観察の手法はどういったものですか?
T 観察の目的は、インスピレーションを得ること、机では得ることのできない何か新しいことを学ぶことだ。サイバースペースでネットサーフィンすることで学べることもあるかもしれないが、一般的に、物理的に机から離れて、実際に生活している人々を観察しに出かけることだ。観察から、新しい刺激や新しいデータを見つけるのだ。
観察を行う時は、製品化に携わるデザイナーやエンジニアといっしょに、認知心理学や文化人類学を勉強した社会心理学者を連れていく。つまり、通常、二人組にするわけだ。なぜこうするかといえば、デザイナーやプロジェクト・リーダーは、目の前のできごとを自分の目で見るだけではなく、専門家が見たり聞いたりしたことを教えてもらって再確認できる。そして、それに対する可能なソリューションも浮かびやすくなるからだ。
E 先ほどあなたは、ブレインストーミングやプロトタイピングは、全プロセスを通して行われるとおっしゃったが、観察はどの段階で行われるのですか?
T 「理解」の次の段階として行うが、プロトタイプをつくった際にも行う。一種のテストとしてプロトタイプを人々に見せる。ヒューマンファクターの担当者もそこにいるだろう。歯磨きチューブのキャップ部分のソリューションの話は本でも取り上げた例だ。Crestは新しい歯磨きチューブをつくろうとしていた。デザイナーは、独自性を出すことにプライドをかけ、プロトタイプをつくった。それは日本でよく見かけるような、ふたがぱかっと開くタイプのものだった。そして、それを消費者に渡した。しかし、アメリカ人の消費者が、これまで使ってきた歯磨きはすべてねじって開けるタイプのものだった。みんな「自分のは壊れている。ねじってもはずれない」と言った。デザイナーは「それはぱかっと開くタイプなんだ。ご覧なさい、こんなに簡単なのに」と言ったが、ヒューマンファクターの担当者は、こう言った。「たくさんの人に与えて、全員が同じようにねじるのなら、デザインし直すべきだ。デザインがどんなに完璧でも、それを使う人が使えないのなら意味がない」。
われわれがつくったものの中で勲章的価値があると思うのは、心筋の細動阻止装置(ディフィブリレイター)で、これは、本の中でも説明し写真も載せているけれど、われわれはこれを最初、ラップトップコンピュータのように、2枚貝のようなスタイルにした。それを人々に手渡して「60秒で開けてみてください」と言ったところ、みんなどちら側から開けていいのか分からなかった。そこでわれわれは、さらにシンプルにして、ほとんど箱のような四角い形にした。継ぎ目も無く、表面に3つの手順が表示されているだけ。私の6歳の娘ですら、何も説明しなくても使えるものになった。この装置は、すでに50人もの命を救っている。この装置がもっと複雑だったら、そのうちの何人かは助かっていなかっただろうね。
この話のポイントは、「プロトタイピングと観察をいっしょに行うべきだ」ということなんだ。プロトタイプができあがったら、そういうものを使ったことのない人に渡して、この例のように「どう使うかやってみて」と言って試してもらう。それを観察し、デザイナーは改良する。デザインビジネスであれ何であれ、あなたの顧客が理解できないことがあれば、それを分かりやすく説明する責任は企業にあるんだ。もっと顧客にとって分かりやすいものにしなければ、製品化はできない。
ボスをスタッフが選ぶチーム編成
E 読者はこの本から、自分の組織のためのインスピレーションを得たいと思っていると思うのですが、たとえその組織がサービス業でも、この本は役に立つと思いますか?
T 誰にとっても役に立つよ。いろいろな方からメールをいただいたのだが、その中には、AIDSワクチンのリーディングカンパニーからのメールもあったし、アリゾナのバプティスト派の牧師さんからもいただいた。彼はこの本を教会の仕事に応用したそうだ。私はそんなことを想定していなかったけれど。ハワイ州の州知事からもメールが来て、「IDEOの手法を参考にして、起業家が起業するのを奨励するために、州法を改正した」とあった。ホノルルに起業家のためのインキュベーター・グル−プをつくったみたいだ。
E グループごとにスタジオをつくっていると思うのですが、働く環境はこれらのプロセスにどう影響を及ぼしているのですか?
T それは、私が好む話題の一つだね。お話ししたいストーリーがあるのだが、ある日、High Street 660番地にあるスタジオの長のデニス・ボイルがやってきて、「2人雇おうと思ったんだが、彼らのスペースがどこにもないから困った」と言った。その時、すべてのスタッフがHigh
Streetの831番地に集まってランチを食べていたのだが、一人のエンジニアが手を挙げて、「われわれ一人一人が1ft(約30cm)ずつ自分のスペースを譲れば2人のためのスペースができる」と言ったんだ。デニスが「誰も反対しないのならそうする」と言ったところ、誰も反対しなかった。そこで、翌日、マスキングテープで、各自の新しいワークスペースを区分けしていった。このソリューションがすばらしいのは、誰も不満に思わなかったことだ。もし、これが、例えばジェネラル・マネジャーである私が提案したことだったら、「あの人達」のソリューションになってしまって、「スペースが窮屈になった」とか「自分が損をした」とか不満が出てきただろう。しかし、これは「自分達」のソリューションだった。全員がこの決定に参加した。だから誰も不平を言わなかったんだ。
部分的には、家具にキャスターが付いていた等のテクニカルなソリューションだったが、一方で組織のダイナミズムのソリューションでもあったからすばらしいのだ。
E IDEOの組織構成について話していただけますか?著書の中であなたは、「グループ・リーダーがメンバーを選ぶ代わりに、スタッフが誰のところで働くか、どのプロジェクトに加わるかを決める」とおっしゃっていますが。
T それを説明するには7年位前に遡ったほうがよさそうだね。 当時、社員が100人位になっていたんだ。私より4歳年長の兄、デイヴィッドがCEO(現在はチェアマン)で、私と財政担当がいて、100人のスタッフは多かれ少なかれ、デイヴィッドにあらゆることをリポートするような体制だった。しかし、100人全員にデイヴィッドが目を配るのは無理だった。だからグループに分けることにしたんだ。われわれマネジメントサイドで、5人のグループ長を任命した。それから残りのメンバーを5つに分けたのだが、そのやり方はとてもユニークだった。マンデーモーニング・ミーティングで5人のグループ長が、それぞれのスタジオでどのようなことを行いたいかを全員の前で説明したんだ。例えばデニス・ボイルは、いろいろなものが詰まったボックスを持ってきて「私はこうした小さな消費材を作りたい。こうしたものを作るのが好きだから」と述べた。またほかのグループ長は「医療器具を含む機器の開発」、またあるグループ長は「スマート・プロダクト」というふうに、5人それぞれがやりたいことを述べた。つまり、グループをディシプリン(専門分野)で分けるのではなく、グループのリーダーが何に情熱を持っているかによって分けたんだ。それは少々乱暴な分け方だったが、われわれにとってはうまく機能した。
われわれはスタッフに紙を渡して自分の名前と所属したいグループを第1希望から第3希望まで書かせた。われわれはグループ分けを柔軟に考えていたので、全員が第1希望のグループに所属することができた。それぞれのメンバーは自分のグループがどの建物にスタジオを構え、そして自分のスペースをどのようにしつらえるかに関わることができた。ボスを自分で選ぶなんて、ビジネスの世界にどれくらいあるだろうか。自分のボスを自ら選び、自分の仕事場づくりにも参加できるのだ。こうして、本当にモチベーションを持ったグループができあがった。さらにすばらしいことは、グループ分けをした数年後に、もう一度グループを再編成し直したことだ。もしかすると、ボスが嫌になったとか、メンバーの誰かとうまくいかないとかで、同じスタジオにいるのが嫌になった人もいるのではないかという感触を持ち始めたからだ。そして、また第1希望から第3希望までを書かせた。何人かは異動を希望したが、それほど多くはなかった。たいていの人は元のスタジオに留まったが、たとえ留まったとしても、「ここが自分のいたい場所で、ここにいることを自分で選んだんだ」と、再肯定することになる。長年結婚生活を続けているカップルが、再度誓約するようなものだね。こうしたことを行うことによって、スタジオ内のチームに非常にいい感情が生まれた。
プロジェクトはスタジオ間で共有する
E プロジェクトは、どのように進められるのですか?
T 毎週火曜日の朝に、リソース・ミーティングと呼ばれる会議が開かれる。そこでは、会社がこれからやろうとしている新しい仕事が明らかにされ、それらの仕事に誰が携われるか、また、誰が興味を持っているかを把握するんだ。そして、基本的には彼らにこのプロジェクトで働きたいかどうかを尋ねる。デザイナーもエンジニアも、ノーという権利を持っているからね。
E 毎週火曜日にその会議を行うんですか?
T そうだ。われわれは100以上もの新しいクライアントと話を進めているので、毎週何かしらプロジェクトが立ち上がっているんだ。
E 現在スタジオはいくつあるのですか。
T 7つだと思う。
E 2つのスタジオが1つのプロジェクトに取り組むということもあるのですか?
T 可能な限りスタジオ間でプロジェクトを共有するようにしているので、むしろ1つのスタジオだけでプロジェクト全体をやり遂げるというほうが珍しいね。その理由の一つは、プロジェクトというのはピーク時は忙しくて、ピークが過ぎると全員が突然やることがなくなってしまったりする。だから、暇な時も忙しい時も、スタジオ間でシェアしておけば、ギャップを埋めるのがずっと楽なんだ。一種のリスクマネジメントだね。
E 各スタジオはマルチ・ディシプリンなんですか?
T 1つのスタジオを除いては、マルチ・ディシプリンだね。
E あなたは先ほど、各スタジオはアイデンティティをそれぞれ確立していると強調しておられたが、スタジオ間で連携して働くとなると、各スタジオがアイデンティティや個性を持つ目的や効果はどうなるのですか?
T 各プロジェクトは1つのスタジオに属するんだ。もし、あなたがあるスタジオが中心になるプロジェクトに参加するなら、あなたは、そのスタジオに貸し出されることになる。あなたは2つのものに対して忠誠心を持つわけだ。自分の属するスタジオや同僚(仕事の後でいっしょにビールを飲みに出かける相手のようなね)、そしてプロジェクトチームだ。多くの組織で、そうした二元性をもって仕事が行われていると思う。IDEOのワーカーはこのバランスをとてもうまく取っていると思う。
E マネジメントサイドは、従業員がほかのプロジェクトやスタジオに関心を持ったり関わることを奨励しているのですか?
T ある程度までは、従業員が会社全体に忠誠心を感じるよう望んでいる。もし、あなたがマーケティングの部署にいて1日中マーケティングの人とだけ働き、仕事が終わってからもマーケティングの人とだけ飲みに行ったりしていると、マーケティング・グループはすばらしいが、ほかの部署はたいしたことないと思うようになるかもしれない。狭いところにだけいるとそういった危険性がある。「自分達」と「あの人達」といった図式にね。だから、クロスオーバー的なわれわれのやりかたでは、毎日次々に異なる人といっしょに働くのだから、ほかのグループに対する尊敬も生まれるし、ほかのグループの人達と個人的なつながりも持てる。
ワークスペースは会社を語るボディー・ランゲージ
E あなたは、最適な物理的環境の例として、グリーンハウス(温室)効果について言及しておられますが。
T 温室で十分な温度・光・湿度・栄養を与えると、植物の成長が期待できる。温室を管理する人が光合成を起こすわけではなく、植物を成長させるわけでもないが、正しい栄養を与えるわけだ。それと同じで、もし、CEOやマネジメントチームが、空間を尊重すれば、正しくものごとを成長させ、グループを育て、コラボレーションやオープンなコミュニケーション、自由な働き方を育むことができるのだ。
私の著書の中でも触れているが、フランクリン・ベッカーとフリッツ・スティールは"Workplace by Design"という本で、ボディー・ランゲージとヴァーバル・ランゲージについて語っている。組織にとって、メールやパンフレットはヴァーバル・ランゲージだが、物理的スペースはボディー・ランゲージだというのだ。われわれにとって、ヴァーバル・ランゲージは自分が同意できなければ真実にはならないが、ボディー・ランゲージは真実だと信じられる。例えば、マネジメントチームが「人がわが社の最大の資源です」と言ったとしても、もしオフィスに入ってみて、彼らが最後の1ペニーまでコストを圧縮して、あなたにみじめな生活をさせるのなら、彼らはあなたという従業員を製品の1ユニットとしてしかみなしていないのだ。
オフィススペースに来た人は、「ここは自分が働きたい場所だろうか、家にいるような居心地のよさが感じられるだろうか」と即座に判断を下す。そしてその判断が、そこで働きたいと思う人を増やしもし、減らしもするのだと思う。
E ここでは、みんなが権限を与えられていて、基本的には自分が所属したいところにいる、つまり自分達が望むようにチームを編成しているわけですが、こうした組織のつくりかたが、イノベーションをもたらすのですか?
T 優秀な人材を雇い、彼らが楽しめる仕事を与えるのがすべてだ。グループ間のいわば「受粉」のようなことを起こすプロセスを持っていることもそうだ。受粉ということに関して言えば、スペースもそうした受粉を生み出すのに使える。わが社では、以前よりずっとすばらしいカフェをつくった。みんなカフェに集まってくるんだ。それに全員の郵便を配るメールボックスもカフェのそばにつくった。偶然の出会いを奨励するためにね。
また、各ネイバーフッドにフロントポーチのような場所を与えた。自分達がつくっているものをディスプレイする場だ。人々にコンスタントにプロジェクトを見せる"Show
and Tell"のプロセスとして、ほかの人からのフィードバックを得ることができ、グループワークのためにそれを最大限利用することができるんだ。もちろん、全員がオープンオフィスにいるということも、コミュニケーションを大いに助長している。
E あなたは著書の中で、スタッフが昇進する時に、かつてはちょっといいイスとか灰皿とかをプレゼントしていたと書いていたが、ここでもそうしたほうびを与えているのですか?
T 報いやほうびというのは、組織に固有なものだと思う。70年代終わりに、私の兄のデイヴィッドは、はじめて4人のデザイナーを雇った。そのうちの2人は今でも部下を抱えない、一人のスタッフにすぎないが、2人とも社内でとても尊敬されている。つまり、IDEOには、着々と昇進するような垂直型の進路はないんだ。私が以前いたコンサルティング事務所では、社員のモチベーションは、昇給かパートナーになることだったが、IDEOのモチベーションはもっと複雑だ。
経営陣とスタジオの長は、スタッフが仕事時間の短縮にモチベーションを感じるのか、それとももっと技術的な仕事にチャレンジすることにモチベーションを感じるのか、一人一人のモチベーションを深く理解しなければならないのだ。
(出典:ECIFFO 40号 2002年3月29日)

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